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2023.10.17

~Aさん(30代)~不妊治療で出産された方が語る、精子提供の実体験とわが子への接し方

夫婦間での出産を望んでいても、さまざまな事情で精子提供での生殖医療に切り替えざるを得ないケースは少なくありません。
しかし、第三者からの精子提供は、ドナーの選び方次第ではトラブルが起こり得るリスクをはらんでいます。

そこで今回は、第三者からの精子提供を利用してわが子を出産された方に、不妊治療の実体験をお伺いしました。

※当サービスをご利用いただき出産された方ではございません。

目次

インタビュアーの紹介

I LOVE BABY 代表

I LOVE BABYでは、依頼者が安心して精子提供プログラムを受けられる環境と情報を提供しております。これまでに我々が蓄積したノウハウをいかし、依頼者の一人一人に合った最も効率的かつ状況に適応したプログラムをご提案し、全ての過程を無事に終了できるようにお手伝いさせて頂きます。

二度の流産と夫の難病を乗り越えて、待望のわが子を出産

どのような経緯で精子提供という選択に至ったのでしょうか?

実は私が30代前半のときに2回、子宮腺筋症が原因で流産をして、とてもつらい思いをした経緯があります。
当時は、仕事に逃げたり、出産をやめようかと考えたりしていましたね……。
そんな矢先、夫の難病が発覚したんです。

病気の治療をするにあたって、医師からは「無精子症になる可能性がかなり高い」と告げられました。
病気を完治できたら、子どもが欲しいと考えていた私は、二度の流産を経験して不育症で通院している事実を伝え、「夫との子どもが欲しいんです」と必死に懇願しました。

その結果、幸いにも夫の精子と受精卵を凍結して準備しておこうということになりまして、精子と3つの受精卵を預けて、難病の治療を始めました。

3年ほどの治療期間を経て、幸い病気は寛解したのですが、医師に予告されていた通り、やはり夫の精子はなくなってしまっていました。
無精子症発症を覚悟して、心の準備はしていましたので、そこに対する不安はありませんでした。
ただ、凍結していた3つの受精卵を子宮に移植したのですが、いずれも育たず……。
「じゃあ次は精子で……」と、夫の精子を人工授精したのですが、それも妊娠には結びつかなかったんです。
夫との子どもを産むために、精子や受精卵を冷凍していましたから、「どれもうまくいかなくて、どうすればいいのか……」と、夫婦で本当に悩みましたね。

悩みに悩みましたが、「子どもが欲しい」という気持ちは2人とも変わらなかったので、養護施設から引き取ることを考えたのですが、年齢がネックとなりダメでした。
そこで初めて、精子バンクを探しはじめました。

第三者からの精子提供を検討するにあたって、どのように情報を調べましたか?

主にインターネットで情報を集めました。
配偶者ではない第三者との人工授精が可能な病院を探したのですが、なかなか見つからなくて……。
病院を探すときに、「夫の精子です」と嘘をついてしまえば、おそらくもっと病院は見つかったと思いますが、やはり倫理的な観点でやめました。

そこで、情報収集の場をSNSのインスタグラムに切り替えました。
精子提供を利用して、出産された経験者が多かったからです。
精子バンクからの精子提供で、お子さまを3人出産された方をフォローさせていただいて、「どこの病院で人工授精できましたか?」とお伺いしましたね。

直接、ダイレクトメッセージを送ってやり取りしていたのですが、東京都と神奈川県を中心にたくさん病院を紹介していただけました。

精子提供を利用するにあたって、どのような点が決め手になったのかを教えてください

夫の精子や受精卵を使っても、妊娠には至らなかったので、第三者からの精子提供を検討せざるを得ませんでした。
ドナーを探すにあたって、精子バンクを探しましたが、どれも安心できるものではなくて……。

そんななか、あるとき夫の家族に人工授精を検討しているという旨を伝えたら、夫の兄が「俺たち似ているし、産まれた子どももそこまで気にならないんじゃない?」と精子の提供を申し出てくれたんです。
義理の兄の申し出はとてもありがたいことではあったのですが、やはり正直な話、配偶者ではないので抵抗もありましたし、最初は迷いましたね。

夫と義理の兄は血液型や体格が同じなので、「将来子どもが産まれたときに、父親と似ているほうがいいな」と思い、1か月間毎日のように夫と話し合いました。
長い話し合いの末「僕の遺伝子が少しでも入っているほうがいいよね」と、まとまりまして、義理の兄に精子の提供をお願いすることにしました。

夫の兄の精子で人工授精するにあたって、病院を探していたのですが、私が不育症で通っていた病院では、親族間での精子提供が認められていなくて……。
ですから、配偶者ではない第三者からの精子を人工授精してくださる病院を探す必要があったんです。

夫の兄に提供していただいた精子を使って、3回目の人工授精で子どもを授かりました。
妊娠したのが30代の後半で、その後無事に待望のわが子を出産しました。

個人間での精子提供ではさまざまなトラブルが起こっていますが、それについてはどう思われますか?

精子バンクでドナーを探していたときに、「すぐに精子をお渡しできます。喫茶店で会いましょう」みたいなことを書いていた方がいたんです。
料金はとても安かったのですが、正直嫌悪感を抱きましたね。

やはりこういう方とやり取りすることは、トラブルにつながるリスクが高いので、個人で運営されているサイトは避けたほうがよいと思います。
ドナーが健康診断を受けていて、健康であることが証明できるような、法人サービスが一番いいですよね。

人工授精の病院を選んだ決め手を教えてください

インスタグラムでのやり取りで紹介していただいた10か所の病院には、1つずつ連絡をとりました。

もともと不育症の治療でお世話になっていた病院は、自宅から高速道路で2時間近くかけて通っていたんです。
さらに、急患などの兼ね合いで、ときには10時間ほど待つこともあって……。
やはり何度か通院することを考えると、「少しでも近くなればいいなあ」という気持ちは以前からありました。

正直、費用はどの病院も変わりませんでしたし、スタッフの皆さんもとても親切だったので、最終的には自宅からの通いやすさで決めましたね。
その病院は予約制だったので、混雑で待ったとしても1時間程度で済んだのはありがたかったです。

精子提供での妊娠の選択を打ち明けた際、ご家族の理解は得られましたか?

私の母親は「もう2回も流産して、身体がボロボロなんだから子育ては無理よ」と言っていましたが、夫の両親は「孫が増えるにはうれしいね」という感じでしたね。

実は、義理のお姉さんが私の同級生で、義理の姉夫婦と家族ぐるみで出かけるような仲なんです。
彼女にしてみれば、同級生の友達とはいえ自分の夫の精子を渡すわけですから、「本当に大丈夫?ヤキモチ焼かない?」と、しっかり確認しました。
「体の関係になるわけじゃないし、家族が1人増えるのはうれしいよ」と言ってくれたことには、本当に感謝しています。

子宮腺筋症、難病を乗り越えて出産できたわが子は、世界一かわいい存在

お子さまの出産に至るまで、特に大変だったことはありますか?

結婚があまり早いほうではなかったということにくわえて、子宮腺筋症を患っているために、妊娠できても流産してしまうのがつらかったです。
「少し休んでまた頑張ろう!」と思い直した矢先に、夫の難病が判明してしまったので、当時は子どもどころではなかったというのが本音です。
正直、どうしていいかわからなくなりましたね……。

病気を寛解して、無精子症になってしまった夫からは、「離婚して、子どもをもてる人と再婚してもいいよ」と言われました。
私も子宮腺筋症を患っていたので、子どもができなかったのは夫だけの責任ではないですよね。
私としては、夫が難病を乗り越えて元気になってくれたことが本当に嬉しかったので、離婚しようとはまったく考えませんでした。

最終的に、子どもができなかったとしても、私たちが幸せならそれでいいと思ったからです。
いろんな家族のカタチがあるはずなので、そのうえでも「どうやったら私たちに子どもができるのかを考えてみよう」と、前向きな話し合いで手段を模索しました。

精子提供でお子さまが産まれた際の心情を教えてください

今思うと、くしゃくしゃで猿みたいな顔をしていたんですが、そのときはかわいくて仕方ありませんでしたね。
もう本当に「誰にも触らせたくない!」という気持ちにまでなってしまって(笑)

年齢的なこともあって、分娩台に上がってから出産するまでに27時間もかかってしまったんです。
陣痛促進剤を打ちながら、本当に声も出ないくらいで……。ベッドの柵に捕まってこらえていた感じです。

かなり長い時間がかかりましたので、途中で赤ちゃんの心音が弱くなってしまい、最終的には吸引分娩に切り替えました。
赤ちゃんの頭を吸引器で引っ張るかたちでの出産になり、無事に頭は出てきてくれたのですが、産まれた瞬間の産声がなくて、不安でたまりませんでした。

助産師さんの懸命な対応もあって元気な産声を上げてくれて……、抱き上げた瞬間はもう、私がわんわん泣いてしまいましたね。
立ち合いができない病院だったので、分娩室の奥の待合室で待ってくれていた、夫と母と義理の母が入ってきて、みんなで最初に交わした言葉は「かわいい……!」でした。

陣痛が始まってから赤ちゃんに出会えるまでに、かなりの時間がかかりましたが、無事に産まれてきてくれて、家族が増えたことは心の底から嬉しかったです。

妊娠から出産までに家族や周りの方からのサポートはありましたか

私自身が求めていなかったこともあって、家族からのサポートは特になかったですね。

妊娠につながるまでは、「義兄から受け取った精子を病院で人工授精して、少し安静にして帰る」という流れを3回繰り返しました。
病院の先生とも相談して、3回の人工授精のあいだは、仕事もお休みさせていただくことにしました。
受け入れてくださった職場には感謝しかありません。

夫は、病気が完治して仕事に復帰したばかりで忙しかったので、家事を手伝ってくれたとか、何か特別なことをしてくれたわけではなかったです。
ただ、子どもが産まれてくることをすごく楽しみにしてくれていたので、妊娠できてよかったなという反面、「また流産してしまうんじゃないか……」という不安も正直ありました。

自分自身ができることとして、医師に妊娠中によくないと言われていた、喫煙やアルコール、生魚などはすべて絶ちました。
大好きな紅茶も我慢しましたね。

その甲斐あっての出産だと思うので、無事に産まれてきてくれて感無量です。

精子提供を利用された方とのコミュニティなどには入っていますか?

現在参加しているコミュニティは特にないですね。
当初活用していたインスタグラムは、家事や仕事が忙しくなって利用をやめてしまいました。

以前やり取りさせていただいた方のフォロワーは当時1万人もいて、いろんな疑問や相談に乗ってくださっていました。
同性カップルで赤ちゃんを産みたい方や、我が家のように無精子症で困っている方もいましたね。
フォロワーの方からの妊娠報告には、みんなでお祝いしていました。

皆さん本当にたくさんの質問をされていたのですが、一生懸命答えてくださっていて……。
精子提供に関する情報が少ないなかで、こういう方がいらっしゃったのは、本当にありがたかったです。

より若いときに生殖医療をしておけば良かったと思ったことはありますか

私が、世間一般からは高齢出産とされる年齢になったときに、夫が難病にかかり、看病でいっぱいいっぱいになって、妊活どころではなくなってしまった焦りはありました。

若い頃は生理の症状に対して、婦人科には通っていたのですが、月経過多や内膜症との診断だったので、ピルも服用していませんでした。
ですから、自分が子宮腺筋症ということは、流産するまで気がつかなかったんです。

子宮腺筋症は、子宮の一部分が固まってしまう病気なので、受精卵が着床する場所によっては育ってくれません。
人工授精をするにしても、着床する場所は医者でも決められないので、妊娠できる確率は運任せでしかないんです。

単に生理痛が重くて、痛みや量がすごいタイプとしか思っていなかったので、子宮腺筋症という病気をもう少し早く知っていたら、対策ができたんじゃないかとは思います。

生殖医療の受診から出産を通して、あるといいなと思ったサービスや支援はありますか?

具体的にこんなサービスがあるといい、と思ったことはないですが、世の中全体が精子提供に対する、抵抗や偏見をもたないようになってくれるといいですよね。

もちろん、夫婦の遺伝子をもって産まれた子どもが一番良いのは言うまでもないです。
ただ、産みの親が大事なのはもちろんですが、育てている親も同じくらい大事だと思っています。
精子提供で産まれた子どもでも、再婚でも自分の子どもには変わりありません。

娘のクラスにも、子どもと保護者の血がつながっていないというご家族がいらっしゃいます。
男性は好きではないけど、子どもは大好きな女性もいらっしゃると思うので、そういう方が子どもを産んで育てていけるのが一番うれしいですね。

子どもの理解力が進んで知られてしまう前に、本当のことは伝えるべき

ご自身のお子さまに、出自の事実を伝える予定はありますか?

娘は小学生なので、まだ話していませんが、18歳か20歳のときに話してみようと思っていました。
戸籍謄本を取り寄せる時期がそのくらいの年であると思うので、それよりは先に知らせたいです。

ただ最近、理科の授業で妊娠と出産について学んできていたので、そろそろ話してもいいのかな、とも考えていますね。
学校で赤ちゃんと同じ重さの人形を抱っこしたり、赤ちゃんがどうやってできるのかを学んでいたりしているみたいで。
本人も第二次性徴に差し掛かっているので、このタイミングで「実はね……」と話をしてみようかと思っています。

精子提供で産まれた子どもが生きやすい社会のためには、何が大切だと思いますか?

親がいなくても、仮に第三者であったとしても、差別されるようなことではないと思います。
私自身もそういう気持ちはなく、むしろ「第三者の精子で、妊娠・出産するのは悪いこと?子どもを諦めるくらいなら、第三者からの精子提供を選んで妊娠・出産できるように道を開くべき」とすら思っています。

娘のクラスにも、養護施設から通っている子どもがいます。
学校側がその子に配慮しているからだとは思うのですが、「お母さんやお父さんの絵を描きましょう」みたいな課題もクラス全員に出さないんですよ。

「そもそも差別だ、偏見だ、と考えることが違う」という意識に、私たち大人から変えていくことが大切ですよね。

自分たちの子どもを諦める必要はない

精子提供、不妊治療でお悩みになっている方・現在ご検討中の方が一歩踏み出せるようなメッセージをお願いします

精子提供者が誰であれ、自分の子どもは世界で一番かわいいので、100%愛せます。

私も最初は、夫に対して、本当は自分の子どもではないことがわかっているから、娘と距離を置いてしまうんじゃないかという不安がありました。
でも娘が産まれてからはベタ惚れで、私のことなんて放っておいて「娘命!」という態度なんです(笑)
私の体験を通して「一緒に暮らしていけば、自然と家族になれるんだよ」という事実を、皆さんにもお伝えできればと思います。
当時の私には、「夫は本当にいいお父さんになるから、安心して産んで」と伝えたいですね。

これから妊娠・出産される方にはこの体験を通して何か応援できたらと思います。

 

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